
生成AIの急速な進化によって、システム開発や運用・保守、さらには企業の日常業務まで、大きく変わろうとしています。当社でも、ClaudeやMicrosoft Copilot、IBM Bobなどの活用が急速に広がり、システム開発から設計書レビュー、管理業務まで、さまざまな領域で成果が生まれ始めています。
そして今、当社が次に目指しているのが、自社で蓄積した生成AI活用の知識やノウハウを、お客様のビジネスへ還元していくことです。当社のAI戦略と新たに体系化を進めるAIサービスについて、代表取締役社長の深井淳がご説明します。
生成AIはITとビジネスを変える技術
―― 深井さんは、最近の生成AIの進化と、その影響をどのように見ていますか。
深井 生成AIによって、ITだけでなく、ビジネス全体が劇的に変わってきていると感じています。
生成AIというと、「人が足りないからAIで補う」「開発を効率化する」といった話になりがちですが、私はそれだけではないと思っています。企業には、これまで長い時間をかけて蓄積してきた知識やノウハウがあります。システムの中にはビジネスロジックが蓄積されていますし、社員1人ひとりも仕事を通じてさまざまな知識や経験を身につけています。
生成AIの大きな可能性は、そうした企業や人が蓄積してきた資産を、これまで以上に活用できるようにすることにあると思っています。それによって仕事のやり方を変え、新しい価値を生み出し、企業の競争力を高めていく。そういう技術ではないでしょうか。当社自身も今、生成AIをさまざまな業務で使いながら、その可能性を探っています。
―― すでに実際のプロジェクトでも生成AIを活用していますね。
深井 はい。現在、生成AIを活用した開発プロジェクトが4~5件ほど進んでいます。開発の中でClaudeなどを使っていますし、IBM iのプロジェクトではIBM Bobも試しています。つまり、生成AIについて検証しているだけではなく、実際のシステム開発のプロセスに組み込む段階に入っています。
IBM iのお客様で進めているモダナイゼーションも、その1つの例です。そのお客様は、RPG Ⅲで構築したシステムを長年利用しています。この案件は当社を含む4社のコンペで、他社からはJavaへ全面的にリライトするといった提案もあったようですが、当社は既存のIBM iとRPGの資産をできるだけ生かす方法を提案しました。
具体的にはRPG ⅢをILE RPGへ移行し、重要なビジネスロジックは基本的に残しながら、IBM iのIWS(Integrated Web Services)を利用してWeb化します。長年使われてきたビジネスロジックを大きく変更しないことで、安全性を確保しながらシステムを現代化する。その開発プロセスに生成AIを組み合わせています。
これはIBM iに限った話ではありません。既存システムや企業が蓄積してきた資産をどう活かしながら、新しい技術へつなげていくか。生成AIは、そのための非常に有効な手段になると考えています。
熟練者の「経験」をAIで生かす
―― プログラム開発以外には、どのように利用していますか。
深井 別のプロジェクトでは、基本設計書のレビューにClaudeを利用しています。通常は設計書を作成した後、社内の熟練者がレビューしますが、その前段階をまず生成AIに担当させています。最終レビューを担当する社員がこれまでどのような観点でチェックしてきたのか、どのような点を指摘し、どんな修正を求めてきたのか。さらに要件定義書や、お客様から戻ってきたレビュー結果なども利用します。
こうした情報を活用することで、熟練者が最終レビューを行う前に、生成AIが過去のレビュー観点に基づいてチェックできるようになります。通常なら1~2時間かかっていたレビューを半分程度に短縮できるケースもありますし、最終レビューでの修正も減ってきています。
ここで重要なのは、単純な作業時間の短縮だけではありません。ベテラン社員が長年の仕事を通じて蓄積してきた知識や判断基準を、生成AIを通じて組織全体で活用できる可能性があるということです。私は、こうしたところに生成AIの大きな価値があると考えています。
社内に点在するAI活用のノウハウを「会社の力」へ
―― 生成AI活用は技術部門だけではないのですね。
深井 そうです。管理部門ではMicrosoft Copilotをかなり使っています。たとえば勤務表のチェックです。出社・退社の打刻忘れがないか、外出しているのに交通費が申請されていないケースがないか、といった確認にも利用しています。定常業務を生成AIに任せることで、それまで1時間程度かかっていた作業が2~3分になった例もあります。
興味深いのは、会社からトップダウンで「この業務にAIを使いなさい」と指示したわけではないことです。それぞれの現場で「これに使えるのではないか」「こうすると便利だ」というアイデアが生まれ、自然に利用が広がってきました。
これは生成AIの特徴かもしれません。IT部門だけがAIの使い方を考えるのではなく、実際に業務を担当している人自身が、自分の仕事の中でAIの使い方を考えることができる。だからこそ、ITとビジネスの両方を変える可能性があるのだと思います。
―― そうなると、個々の現場で生まれたノウハウをどう共有するかも重要になりますね。
深井 そこが次のテーマです。各プロジェクトや管理部門などからメンバーを集め、20人程度の「生成AI共創フォーラム」を立ち上げました。それぞれの生成AI活用事例を持ち寄って共有し、各現場へ戻していく仕組みです。
さらに、それらを体系的に整理した「生成AI活用事例集」のようなものも作りたいと考えています。ある部門で見つけたAIの便利な使い方が、その部門だけにとどまっていてはもったいない。別の部門や別のプロジェクトでも応用できるかもしれません。個人の工夫をチームのノウハウにし、それを会社全体の知識にしていく。それができれば、生成AIを使うこと自体が当社の新しい組織能力になっていくと思います。
社内での実践を、お客様のAI活用へ
―― そして、その知識をお客様向けのサービスへ展開していくわけですね。
深井 その通りです。生成AIについてお客様とお話ししていると、「AIと言われても何から始めればいいのかわからない」「自社の業務でどう使えるのかわからない」という声をよく聞きます。それなら、私たち自身が実際の業務やシステム開発でAIを使いながら得てきた知識やノウハウを、お客様にも提供していこうと考えています。
単体のAI製品を販売するだけではありません。AIをまず試していただくところから、既存システムの分析、システム開発、モダナイゼーション、運用・保守、人材育成までを支援する。そして将来的にはAIエージェントや経営分析へと広げていく。
お客様がAIを「知る」段階から、実際のビジネスで「使う」段階へ進むまでをご支援していく。それが当社のAIサービスの基本的な考え方です。
J CUBE AI One、J CUBE AI AURA、J CUBEアカデミー、J CUBE AI DRIVE
―― AIサービス体系について具体的に教えてください。まず「J CUBE AI One」はどのような位置づけでしょうか。
深井 現在、製品として明確に形になっているのがJ CUBE AI Oneです。
まずIBM iのお客様を中心に展開していきます。お客様の中には、「AIをちょっと試してみたい」「AI、AIと言われるけれど、自社で何に使えるのかわからない」という方がまだ少なくありません。そこで導入しやすいJ CUBE AI Oneを使っていただき、まずAIで何ができるのかを実感していただく。お客様がAI活用へ踏み出す入口のような位置づけにしたいと考えています。そこから、「では自社のこの業務にも使えないか」「このデータを分析できないか」「既存システムと組み合わせられないか」といった次の発想が生まれてくると思います。
―― 体系図では、既存システムの分析や運用・保守も大きな領域になっています。
深井 これはIBM i分野で、すでに具体的に検討を進めています。IBM iのお客様からは以前から、「システムを保守できる人がいなくなった」「社内の担当者が高齢化したので保守をお願いしたい」といった相談をいただいています。
ただ、当社が開発に関わっていないシステムの保守を引き継ぐには、最初にシステム全体を調査・分析しなければなりません。ここに大きなワークロードがかかります。そこで、既存の解析ツールと生成AIを組み合わせます。IBM iであれば、たとえばSS/TOOLとIBM Bobなどを組み合わせる方法です。最初に解析ツールでシステム資産を可視化しておけば、生成AIが処理しなければならない情報量を減らすことができますし、回答も速くなります。
生成AIだけですべてを解決しようとするのではなく、これまで培ってきたツールや技術とAIを組み合わせる。「J CUBE AI AURA」によって、運用・保守のあり方を変えていきたいと考えています。
モダナイゼーションにも生成AIを組み込む
―― モダナイゼーションもAI活用の重要な領域になりそうですね。
深井 そう思います。先ほどお話ししたRPG ⅢからILE RPGへの移行とWeb化も、その具体例です。
IBM iには長年蓄積されてきた重要なビジネスロジックがあります。それをすべて捨てて別のシステムへ書き換えるのではなく、使えるものは生かす。画面はWeb化し、帳票はPDF化する。一方、重要なビジネスロジックはできるだけ変更しない。そこに生成AIを組み合わせることで、より効率的で安全なモダナイゼーションを進めていきたいと考えています。
IBM iは当社が長年取り組んできた重要な事業領域ですから、ここでAI活用をさらに進めていきます。同時に、そこで得られたノウハウはIBM iだけに閉じるものではありません。さまざまなシステムや業務のAI活用にも展開できると考えています。
―― AIサービス体系には人材育成も含まれています。
深井 「J CUBEアカデミー」でも、AIをテーマにしたカリキュラムを考えています。ただし、「IBM Bobの操作方法」「Claudeの使い方」といったHow toだけを研修コースにするつもりはありません。
たとえば管理部門ではCopilotをこう使える、IBM iの技術者ならIBM Bobをこんな場面で活用できる、開発プロジェクトではClaudeをこう利用できる、といった実際のユースケースを紹介したいと思っています。
大切なのは、特定のAI製品の操作方法を覚えることではありません。「自分の仕事にAIをどう生かすか」という発想を身につけることです。受講した人が「これなら自分の仕事でも使える」「明日から試してみよう」と感じられるような内容にしたいですね。
―― 「J CUBE AI DRIVE」はどのようなサービスを想定していますか。
深井 J CUBE AI Oneなどを入口にして、お客様と一緒にAIを活用したビジネス支援システムの形を考えていくサービスをイメージしています。
たとえばTREEのお客様であれば、TREEに蓄積されたデータを使って、システム分析や経営分析にAIをどう活用できるかを一緒に考える。さらに、私たち自身がシステム開発や管理部門などでAIを使ってきた経験を生かして、「御社のこの業務にも使えるのではないでしょうか」と提案することもできると思います。
いわゆるコンサルティングに近い部分も出てくるでしょう。ただ、単に「AIならこういうことができます」と説明するのではなく、私たち自身が実践してきたことをベースにする。それが重要だと思っています。自分たちが試し、失敗もしながら蓄積してきたAI活用の知識やスキルをご提供し、お客様と一緒に活用方法を考えていく。そうした伴走型のサービスにしたいと考えています。
生成AI時代だからこそ、人のスキルが重要になる
―― AIサービス体系は、今後さらに発展していくのでしょうか。
深井 1つの方向として考えているのがAIエージェントです。将来的には、業務システムの操作も、自然言語で指示するだけでAIが実行するようになるでしょう。これはそれほど遠い将来ではないと思っています。
AIチャットのような比較的導入しやすいところから始まり、システム開発や運用・保守へ広げ、さらにAIエージェントへ進む。その先では、企業内に蓄積されたデータとAIを組み合わせ、経営分析や意思決定の支援にも利用できるようになるのではないでしょうか。そうなれば、AIは単なるITツールではなく、企業活動を支える基盤の1つになっていきます。
今示しているAIサービス体系も完成形ではありません。生成AIそのものが急速に進化していますから、私たちのサービスもそれに合わせて変化していくことになるでしょう。
―― 生成AIが進化すると、エンジニアの役割はどう変わると考えていますか。
深井 5年後、10年後にどうなっているかは、正直わかりません。「プログラマーが必要なくなる」といった話もあります。ただし、現時点では生成AIにはまだ信頼性に欠ける部分があります。今は、きちんとしたスキルを持ったエンジニアが生成AIを使うことで、非常に大きな力を発揮できる段階だと思っています。
新人や若手社員にも話していますが、SEとしての基本的なスキルがなければ、生成AIを使っても、その回答が正しいのか判断できません。むしろ技術に詳しい人ほど、生成AIをうまく使いこなせます。これはエンジニアだけの話ではないと思います。業務にAIを使う場合でも、その仕事について知識を持っている人だからこそ、AIに適切な指示を出し、結果を評価し、よりよい使い方を考えることができます。
生成AIが進化するから人の知識が必要なくなるのではなく、AIを生かすために人の知識やスキルがこれまで以上に重要になる。現時点では、そう考えています。
―― 最後に、今後の展望をお話ください。
深井 今期で現在の中期経営計画(2024年4月~2027年3月)が終わり、来期から新しい4年間が始まります。クレスコグループが掲げる2030年に向けた計画(CRESCO Group Ambition 2030)の最後の4年間になります。
私がこの業界に入った頃には、インターネットもスマートフォンもありませんでした。それが今では、インターネットもメールもスマートフォンも、ビジネスに欠かせないものになっています。そして今、生成AIによって、それに匹敵するような大きな変化が始まっているのではないでしょうか。当然、当社自身も変わらなければなりません。
AIだけですべてを置き換えるということではありません。これまで蓄積してきたシステム開発の技術、IBM iをはじめとする各分野の専門知識、お客様の業務に関するノウハウ、社員1人ひとりの経験。そうした当社の資産とAIを組み合わせることで、新しい価値を生み出していく。
IBM iにおける生成AI活用も、その重要な取り組みの1つです。これまで培ってきたIBM iの技術や資産をAIによってさらに生かし、モダナイゼーションや運用・保守の新しい形につなげていく取り組みを、今後も続けていきます。そして、社内で実践して得た知識やノウハウを、お客様のAI活用へ還元していく。今回体系化したAIサービスは、そのための取り組みです。
生成AIによってITもビジネスも変わっていく中で、私たち自身も変化し続ける。そして、お客様と一緒にAIの可能性を探りながら、お客様のビジネスと私たちのサービスをともに進化させていきたいと考えています。


