人事労務・給与業務を担当しているお客様へのお役立ちコラム|第9回 令和8年 算定基礎届作成の注意点

2026/06/02コラム

河村 正雄

社会保険労務士法人ELMソリューションズ
代表社員・特定社会保険労務士

今年も算定の作業が目前に迫ってきました。毎年実施していることとは言え、年に1回しか行わない作業でもありますので、注意点などを中心に確認していきましょう。また、今年は「年収の壁パッケージ」の影響もありますので、該当する企業の担当者は注意が必要です。

1 算定の概要  

令和8年度の基本情報

対象年度と適用期間
令和8年4月・5月・6月支払分の報酬額を基に届出します。

新しい標準報酬月額の適用期間
決定された標準報酬月額は、令和8年9月分から令和9年8月分までの保険料・給付計算に使われます。

提出期限と受付期間
令和8年度の算定基礎届の提出期限は、令和8年7月10日(金)です。

対象者
算定基礎届の提出の対象となるのは、7月1日現在のすべての被保険者および70歳以上被用者です。

ただし、以下の(1)~(4)のいずれかに該当する方は、算定基礎届の提出が不要です。

(1)6月1日以降に資格取得した方
(2)6月30日以前に退職した方
(3)7月改定の月額変更届を提出する方
(4)8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行った方

ポイント! 

(4)の場合、要件に該当せず随時改定が行われない場合があります。この場合は速やかに算定基礎届を提出しなければなりません。算定基礎届の提出が不要とは「提出しなくていい」という意味であり、「提出してはいけない」ではありませんので、(4)については算定基礎届に記入しておくことで提出漏れを防ぐことができます。

算定基礎届を提出しても随時改定(通称「月変」)が行われた場合、後に提出する月額変更届による随時改定が有効となります。

2 実務上の進め方のイメージ 

社会保険料を決定するまでのおおまかなスケジュール

6月中旬~算定基礎届が管轄の年金事務所から郵送されてくる
7月1日~7月10日算定基礎届に報酬額を記入し管轄の年金事務所へ提出
※7月10日が土日祝の場合は翌営業日が提出期限
7月中旬から順次年金事務所から標準報酬月額決定通知書が郵送で届く
※受け取り次第、被保険者に通知すると共に賃金台帳や給与ソフトの記録を変更する
9月~算定により決定された新しい等級の保険料額が適用される
※翌月納付(原則)の場合、納付は10月から
※健康保険組合加入の事業所の場合は、健康保険組合と年金事務所の双方へ提出する必要があります。

3 年収の壁パッケージへの対応 

まず整理したいポイント

年収の壁パッケージの中身
年収の壁パッケージについては下記パンフレットを参考にしてください。
https://www.mhlw.go.jp/content/001542437.pdf

この年収の壁・支援強化パッケージでは、次の2つが算定基礎届に大きく影響します。

①社会保険適用促進手当を標準報酬月額等の算定基礎に算入しない取扱い
②130万円の壁への対応として、事業主証明による被扶養者認定の継続を認める取扱い
③これに加えて、現物給与の価額の取り扱いに変更が行われます。

この「算定基礎に算入しない」と「被扶養のままにできる」、そして「現物給与の価額の変更」の3つが、算定基礎届作成時の注意点になります。

①「社会保険適用促進手当」の特例と実務上の注意点

短時間労働者に対する社会保険の適用拡大が進む中、いわゆる「106万円の壁」による、新たに社会保険に加入する労働者の手取り減少を防ぐ措置も進んでいます。そのため、事業主が支給する「社会保険適用促進手当」の取り扱いに注意が必要です。

算定の際、通常、労働の対償として支払われる手当はすべて「報酬」に含まれ、社会保険料の算定基礎となります。しかし、この社会保険適用促進手当には、以下の特例が設けられています。

特例の内容
新たに発生した本人負担分の社会保険料相当額を上限として、手当額について、標準報酬月額および標準賞与額の算定から「除外」されます。

対象者の要件
標準報酬月額が「10.4万円以下」の労働者に限られます。

期間の上限
最大2年間という時限的措置です。

実務上の注意点
算定から除外できる限度額(本人負担分の保険料相当額)を超えて手当を支給した場合は、その「超過分」の手当については標準報酬月額の算定に含める必要があります。また、月額変更等により標準報酬月額が10.4万円を超えた場合は、特例の適用はなくなり、超えた月からこの手当全額を算定に含めることとなり、固定的賃金の変動として扱われます。

この特例は、労働時間の延長を促す強力な動機づけとなるものですが、給与計算システム上の設定の確認、算定基礎届への除外金額の記載、除外できる上限額の毎月の正確な把握など、細やかな管理が必要です。

出典:年収の壁・支援強化パッケージ
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001150869.pdf

② 130万円の壁と被扶養者認定

年収の壁パッケージにより、繁忙期などに一時的に収入が増えて130万円相当を超えるような場合でも、事業主の証明によって、最長2年間は被扶養者として認定されます。

出典:年収の壁・支援強化パッケージ

算定基礎届で報酬が一時的に高くなっても、将来も同水準が続くのか、一時的増収なのかについて、事業主証明によって明確にしておくことが重要です。

算定基礎届の報酬月額がそのまま「今後も続く年収見込み」と誤解されると、被扶養者認定で不利に扱われる可能性があるため、年収の壁パッケージを前提にした説明資料や証明書の準備が実務上のポイントになります。

繁忙期でパート・扶養内勤務者の時間数が増えている場合、今後のシフト・年収の見込みとセットで確認し、必要があれば「一時的増収」の事業主証明を用意することが求められます。

③現物給与の価額の改定

算定の対象となる報酬には金銭だけではなく、食事や住宅等の「現物」も含めて計算する必要があります。この現物で支給される場合、厚生労働大臣が定める価額に換算して報酬に算入する必要があります。この現物給与の価額に関して、令和8年度に大きな改正が行われます。

食事による現物給与:令和8年4月1日から新しい価額が適用されます。
住宅による現物給与:令和8年10月1日より、従来の「畳一畳につき」の計算から、「総面積1平方メートルにつき」の価額へと算出方法が根本的に変更されます。

詳しくはこちらをご覧ください。

住宅の評価方法について、これまでの日本家屋の基本であった「畳数」から「面積(平方メートル)基準」への移行は、洋室化が進む現代の住宅事情を考慮したものと思われます。

これまで住宅による現物給与の場合、台所・トイレ・浴室・廊下は除いて計算していましたが、令和8年10月1日からは含めて計算します。

出典:現物給与の価額 Q&A

こちらは令和8年10月1日から実施ですので、10月に向けて、社宅などの平方メートル数を正確に把握しておく必要があります。


河村 正雄

社会保険労務士法人ELM(エルム)ソリューションズ 代表社員
特定社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、医療労務コンサルタント、職務評価コンサルタント、相談のプロ
https://www.sharoshi-tokyo.com/index.html

東京都杉並区生まれ、成蹊大学法学部卒業
企業の人事・総務部門を経験した後、1994年東京で社会保険労務士事務所を開業。小売業、医療機関、警備業、教育機関等の労務管理、労務トラブルの解決、採用支援、定着支援等を得意とする一方、キャリアコンサルタントとして企業におけるキャリアカウンセリング、キャリアパス設計のためのコンサルティング実績も多数。また、分かりやすく楽しいセミナーをモットーに各種基調講演や行政機関、商工団体でのセミナーを多数経験。

お知らせ・新着コンテンツ一覧にもどる

ホーム > 人事労務・給与業務を担当しているお客様へのお役立ちコラム|第9回 令和8年 算定基礎届作成の注意点

CONTACT US

メールでのお問い合わせ