河村 正雄
社会保険労務士法人ELMソリューションズ
代表社員・特定社会保険労務士
2026年(令和8年)以降、人事労務管理に関連する法改正が数多く施行されます。そこで今回は法改正の内容と注意すべきポイントを解説していきます。
[1]今後(2026年)施行される予定の法改正
①子ども・子育て支援法などの一部を改正する法律
子ども・子育て支援金の徴収が開始されます。
②女性活躍推進法
男女間賃金差異の公表について、対象が101人以上の企業へと拡大されるとともに、新たに「女性管理職比率」の公表も義務化
③国民年金法等の一部を改正する等の法律
在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げ
④障害者雇用促進法
障害者雇用率の引き上げ
⑤労働施策総合推進法等の一部改正法
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化
[2]子ども・子育て支援金制度の創設
子ども・子育て支援金制度が創設されることにより、医療保険料に上乗せする形で4月から徴収が開始されます。これまでの子ども・子育て拠出金の徴収対象は、厚生年金保険の加入者全員で全額事業主負担でした。しかし、新しい子供・子育て支援金は、従業員と事業主による労使折半へ変更となる予定です。
この新しい子ども・子育て支援金は、医療保険の保険料とあわせて徴収されることになります。
協会けんぽや健康保険組合などの医療保険者は、医療保険制度上の給付に係る保険料や介護保険料とあわせて、子ども・子育て支援金を徴収する義務があります。
子ども・子育て制度の概要については以下の通りです。


上表の下段「給付等を支える財政基盤の確保と見える化の推進」にある「医療保険料とあわせて徴収」とは、支援金制度の創設に伴う徴収ですが、その金額に関しては余り話題となっていません。
資料によると、加入者1人あたり協会けんぽで400円、健保組合で500円が毎月の保険料に上乗せされる予定です。
加入者とは、被保険者と被扶養者の両方を指しますので、扶養家族が2人いる被保険者の場合は前述の金額の3倍となる計算です。
また、これまでの労使折半の考え方から事業主にも同額の負担が求められるものと思われますが、現状では政省令が出ていないため、今後の情報に注意が必要です。
下表の「注1」(このコラムでは省略)には、「金額は事業主負担分を除いた本人拠出分であり、被用者保険においては別途事業主が労使折半の考えの下で拠出。」と記載されています。

また、給与計算担当者としては、以下の作業が必要になります。
(1)健康保険料とあわせて徴収するため、健康保険の標準報酬月額により、従業員(被保険者)ごとに徴収額が異なる点で注意が必要です。
健康保険料については、給与明細で金額を従業員に周知しなければなりません。健康保険組合や協会けんぽから示される保険料額表や資料等を標準報酬月額とあわせて従業員に周知したり、標準報酬月額が変更されるタイミングで周知するなどの作業が必要となるでしょう。
(2)2026年4月の制度施行となり、2026年4月分の健康保険料での徴収(5月の給与より徴収)することで、毎年、健康保険料率が変更されている時期(3月分)との月ずれが生じた場合、4月と5月の給与計算で保険料率を変更しなければならない可能性があります。
仮に月ずれが生じた場合、計算ミスではなく、健康保険料率と「子ども・子育て支援金」の制度施行期日により徴収される健康保険料額が変更になっていることをしっかりと周知することも必要となります。
給与システムにおいては、システム改修の必要が生じます。「子ども・子育て支援金」を健康保険料と別に計算させ表示するのか、健康保険料とあわせて表示するため保険料率(額)を施行時期にあわせて変更するのかなど、早めに方針を決めておかなければなりません。
今後、自社の加入する健康保険の保険者や、こども家庭庁の発表等に注目し、情報収集を進めていきましょう。
[3]女性活躍推進法改正
女性活躍推進法の改正によりこれまで従業員数301人以上の企業に対し、男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が義務付けられていましたが、人数要件が改正され従業員数101人以上の企業が対象となります。

また、令和8年(2026年)3月31日までとなっていた法律の有効期限が、令和18年(2036年)3月31日までに延長されました。
その他の改正点
女性の健康上の特性に配慮することの明確化や、ハラスメント対策の強化なども含まれています。
施行日:4月1日
企業への影響
この改正により、企業は男女間の賃金差異や女性管理職比率を公表することで、透明性を高め、女性の活躍を促進するための具体的な施策を講じる必要があります。
[4]年金法改正
国民年金法等の一部を改正する等の法律の改正により、在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げが行われます。在職老齢年金とは、働きながら老齢厚生年金を受給する仕組みです。
人手不足が深刻となる中、高齢者の活躍の重要性が高まっていますが、 在職老齢年金制度が高齢者の労働意欲を削ぎ、さらなる労働参加を妨げている例もあることから、高齢者の活躍を後押しし、できるだけ労働を抑制しない、働きたい人がより働きやすい仕組みとする観点から、在職老齢年金制度を見直すこととしたものです。

現在の支給停止基準額は50万円(2024年度の場合)ですが、これを引き上げて高年齢者の就労意欲の疎外を図るもので改正後は下表のように62万円(2024年度価格の場合)に引き上げるものです。

なお、2025年度の支給停止基準額は51万円ですので、実際には62万円よりも増額される見込みです。
施行日:4月1日
[5]障害者雇用促進法改正
障害者雇用促進法の改正により障害者雇用率の引き上げが行われます。

自社の従業員数と法定雇用率から必要な障害者の雇用人数を算出し、採用計画を立てる必要があります。
例:2026年7月時点で従業員数が100名の会社の場合
100人×2.7%(法定雇用率)=2.7人(小数点以下切り捨て)→2人以上の障害者を雇用する必要があります。
また、これにより、従業員が38名以上のすべての会社は障害者を雇用しなければなりません。
施行日:7月1日
[6]いわゆるハラスメント防止法の改正
ハラスメント対策に関する改正
カスタマーハラスメントや、求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防止するために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。

施行日:現時点で未定
カスタマーハラスメントに加えていわゆる「就活セクハラ」についても対策が義務化されます。

施行日:現時点で未定
[7]その他の法改正
労働安全衛生法改正による高年齢労働者の労働災害防止の推進
施行日:4月1日
労働安全衛生法改正による50人未満企業におけるストレスチェック実施の義務化
施行日:現時点で未定
[8]労働基準法40年ぶりの改正か?
現在、厚生労働省の労働基準関係法制研究会では労働基準法の改正に向けた審議が行われています。厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会で議論が続けられており、2026年中に法改正が行われる可能性もあります。
改正の主なポイント
①企業による労働時間の情報開示
②フレックスタイム制におけるコアデイの導入
③テレワーク時の新たなみなし労働時間制の導入
④法定労働時間44時間の特例措置の廃止
⑤法定休日の特定
⑥13日を超える連続勤務の禁止
⑦勤務間インターバル制度の導入促進
⑧年次有給休暇取得時の賃金算定方法の変更
⑨副業・兼業時における労働時間通算ルールの撤廃
⑩つながらない権利
⑪過半数代表者の適正選出と基盤強化
出典:「労働基準関係法制研究会報告書」(厚生労働省)
◎執筆者紹介
河村 正雄
社会保険労務士法人ELM(エルム)ソリューションズ 代表社員
特定社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、医療労務コンサルタント、職務評価コンサルタント、相談のプロ
https://www.sharoshi-tokyo.com/index.html
東京都杉並区生まれ、成蹊大学法学部卒業
企業の人事・総務部門を経験した後、1994年東京で社会保険労務士事務所を開業。小売業、医療機関、警備業、教育機関等の労務管理、労務トラブルの解決、採用支援、定着支援等を得意とする一方、キャリアコンサルタントとして企業におけるキャリアカウンセリング、キャリアパス設計のためのコンサルティング実績も多数。また、分かりやすく楽しいセミナーをモットーに各種基調講演や行政機関、商工団体でのセミナーを多数経験。
