河村 正雄
社会保険労務士法人ELMソリューションズ
代表社員・特定社会保険労務士
今年も最低賃金の改定時期が目前に迫ってきました。
最低賃金は、政府の「日本成長戦略会議」が掲げる「2020年代に全国平均1,500円」という目標に向けて、近年、引き上げ額が大きくなっています。今年度も引き続き最低賃金の引き上げが見込まれており、給与計算の担当者にとっては、改定額だけでなく、発効日や給与計算への反映方法についても注意が必要です。
1 最低賃金制度のポイント
最低賃金は時間給で示されますが、時間給で働く人だけに適用されるものではありません。月給者や日給者、出来高払制などの場合も、支払われる賃金を「1時間当たりの額」に換算し、適用される地域別最低賃金の時間額と比較して計算します。
賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは、賃金の支払形態に応じて、以下の方法で確認します。
(1)時間給制の場合
時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)
(2)日給制の場合
日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合は、
日給 ≧ 最低賃金額(日額)
となります。
(3)月給制の場合
月給 ÷ 1カ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
(4)出来高払制その他の請負制の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で割り、1時間当たりの金額に換算して最低賃金額(時間額)と比較します。
(5)複数の賃金形態(上記1~4)を組み合わせている場合
たとえば、基本給が日給制で、職務手当などが月給制となっている場合は、それぞれの賃金を時間額に換算します。そのうえで、それぞれの時間額を合計し、最低賃金額(時間額)と比較します。
2 最低賃金の計算方法
最低賃金の計算に含めるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。ただし、次の賃金については、最低賃金の対象となる賃金から除外します。
(1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2)1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4)所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6)精皆勤手当、通勤手当および家族手当
具体的な計算例(月給者)
最低賃金の対象となる月給が20万円で、1日の所定労働時間が8時間、年間所定労働日数が240日の場合は、1カ月平均所定労働時間は次のようになります。
240日 × 8時間 ÷ 12カ月 = 160時間
この場合の1時間当たりの賃金は、
20万円 ÷ 160時間 = 1,250円
この1,250円を、その事業場に適用される都道府県の最低賃金と比較します。
令和7年度の東京都の最低賃金は1時間当たり1,226円ですので、このケースでは最低賃金を上回っていることになります。
最低賃金は各都道府県ごとに定められています。また、令和7年度は、都道府県によって「発効日」(その日を境に額が引き上げられる日)に大きなばらつきが生じたことも特徴でした。
下の表は令和7年度の地域別最低賃金で、令和8年9月30日まで有効です。
3 最低賃金決定の流れ
最低賃金は、最低賃金審議会において、賃金の実態調査結果など各種統計資料を参考にしながら審議のうえで決定されます。
まず、国の「中央最低賃金審議会」が都道府県をランク分けし、それぞれの「引上げ額の目安」を提示します。現在は、A・B・Cの3つのランクに分けられています。
地域別最低賃金については、この中央最低賃金審議会から示された目安を参考にしながら、各地域の「地方最低賃金審議会」(公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成)において、地域の実情を踏まえた審議・答申が行われ、異議申出に関する手続きを経たうえで、最終的に都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定します。
4 令和8年度における最低賃金の目安
令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安については、下表のとおりです。

この目安額を基に、各地方最低賃金審議会が意見を集約し、最終的な最低賃金額を決定する流れになっています。
たとえば東京都では、東京地方最低賃金審議会の意見に関する公示が示されました。それによると、令和8年度の最低賃金額は、1時間当たり1,280円とするように求めています。
東京都の令和7年度の最低賃金は1,226円で、令和8年度の目安として示された引き上げ額は54円でしたので、
1,226円 + 54円 = 1,280円
となり、東京都については中央最低賃金審議会から示された目安どおりの引き上げを求めていることがわかります。
5 注意したい「発効日」
従来、地域別最低賃金の発効日は10月1日、あるいは10月中のいずれかの日に発効するのが例年の流れでした。
しかし令和7年度は、目安を上回る最低賃金を決めた県があった一方、使用者側の難色が強かった県では、発効日を年度内ギリギリの令和8年3月31日としたケースもありました。最低賃金額の大幅な引き上げを求める労働者側と、急激な人件費負担の増加を懸念する使用者側との調整の結果とも言われています。
令和8年度においても、都道府県によって発効日に違いが生じる、同様の現象がみられることが予想されます。
6 最低賃金はいつから適用されるのか
最低賃金は、都道府県ごとに告示される「発効日」から適用されます。
ここで注意したいのは、最低賃金を「いつ支払うか」ではなく、「いつ働いた分か」で判断するという点です。
たとえば10月1日が発効日の場合
9月30日までの労働 → 旧最低賃金で判定
10月1日以降の労働 → 新最低賃金で判定
となります。
したがって、20日締め・25日締めなど給与の締切期間の途中に最低賃金の発効日が入る場合には、発効日前と発効日以降に労働時間を分け、それぞれについて最低賃金を確認する必要がありますので注意が必要です。
◎執筆者紹介
河村 正雄
社会保険労務士法人ELM(エルム)ソリューションズ 代表社員
特定社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、医療労務コンサルタント、職務評価コンサルタント、相談のプロ
https://www.sharoshi-tokyo.com/index.html
東京都杉並区生まれ、成蹊大学法学部卒業
企業の人事・総務部門を経験した後、1994年東京で社会保険労務士事務所を開業。小売業、医療機関、警備業、教育機関等の労務管理、労務トラブルの解決、採用支援、定着支援等を得意とする一方、キャリアコンサルタントとして企業におけるキャリアカウンセリング、キャリアパス設計のためのコンサルティング実績も多数。また、分かりやすく楽しいセミナーをモットーに各種基調講演や行政機関、商工団体でのセミナーを多数経験。



