経理業務を担当しているお客様へのお役立ちコラム|第5回 所得控除の2つの「壁」にご注意! 1000万円と2500万円の壁

2025/04/22コラム

松本 直樹

松本直樹税理士事務所 税理士

はじめに

所得控除――この言葉は、年末調整や確定申告で耳にしたことがあるはずです。

令和7年度税制改正案では、基礎控除や給与所得控除など、いわゆる「103万円の壁」が政治問題化して大いに注目されました。基礎控除と給与所得控除の最低保証額はそれぞれ10万円ずつ引き上げられて「160万円の壁」になったものの、上乗せ特例なども加わり、かえって複雑になった側面もあります。

「配偶者控除が使えた」「扶養控除はいくらだっけ?」――そんな会話の裏側には、意外と知られていない“適用できるか・できないかの壁”が存在します。

今回はこの所得控除について、特に高所得者に影響する「2500万円の壁」と「1000万円の壁」を軸に、見落とされやすい実務ポイントも含めて解説します。

所得控除とは

前提として、所得控除とは「生活実態や家族構成などに配慮し、課税所得を減らす制度」です。代表的なものとしては基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除、医療費控除、社会保険料控除などがあります。

今回は、このうち、基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除など、いわゆる人的控除について解説します。人的控除は、納税者本人の所得が高い場合に制限がかかることがあり要注意です。

2500万円の壁――基礎控除がゼロに?

基礎控除は、所得税法成立当初の昭和22年から存在しており、スタートは1万円、その後段階的に引き上げられ、昭和63年に38万円になってから延々と据え置きでした。
次の改正の令和2年に48万円になりましたが、合計所得金額が2400万円超から段階的に減額され、2500万円を超えると適用ゼロになります。

「合計所得金額」とは各所得金額の合計ですが、不動産譲渡所得などで特例を使った場合でも、控除前の金額で判定します。たとえば、自宅不動産売却で譲渡益が3000万円の場合で3000万円特別控除を使って譲渡所得がゼロでも、判定は控除前の譲渡益で行われるため、基礎控除がゼロになってしまいます。

また、株式特定口座で売買し申告不要の人でも、申告した場合は合計所得金額に合算されます。

1000万円の壁――配偶者控除・配偶者特別控除

平成30年の改正で、納税者の合計所得が1000万円を超えると、配偶者控除・配偶者特別控除は適用不可となりました。いわゆる1000万円の壁です。

この壁は、給与所得控除の上限195万円を考慮すると、年収1195万円になります。なお、扶養控除には納税者本人による合計所得制限はありません。つまり、本人が高所得でも扶養控除は使えます。

改正のたびに縮小されてきた給与所得控除

所得控除ではありませんが、おなじみの「給与所得控除」も、税制改正のたびに縮小されてきました。

平成25年改正以前までは、給与所得控除に上限はなく、年収がどんなに高くても5%の控除額が追加されていました。しかし、平成25年改正で245万円の上限が設定され、その後も220万円、195万円と上限が縮小されています。しかも、令和2年改正で基礎控除は32年ぶりに増額されたものの、逆に給与所得控除は一律10万円縮小されました。

まとめ

まとめてみると、所得控除は高所得者に厳しい改正が繰り返されてきたことがわかります。「1000万円の壁」については、高所得者でなくても現役世代なら該当する可能性もあると思います。「2500万円の壁」も不動産売却や株式売買の申告状況で突然該当することもあり得ます。

人的所得控除は、「当然に使えるもの」と考えている人が多いように思います。使えるかどうかを毎年チェックする習慣をつけてみてください。


松本 直樹

松本直樹税理士事務所 税理士
https://minnadekomon.jp/

石川県金沢市生まれ
金沢大学法文学部経済学科卒業
卒業後、証券会社で債券トレーダー、デリバティブ業務に従事
証券会社を退職後、税理士事務所勤務
1997年 税理士試験合格
1999年 松本直樹税理士事務所として独立開業
2006年 株式会社ケーエムエスを設立
2014年 総合コンサルチーム「みんなで顧問」結成
2016年 合同会社「みんなで顧問」設立
2023年 マンガ本「みんなの相続」出版
2024年 一般社団法人みんなで顧問設立

お知らせ・新着コンテンツ一覧にもどる

ホーム > 経理業務を担当しているお客様へのお役立ちコラム|第5回 所得控除の2つの「壁」にご注意! 1000万円と2500万円の壁

CONTACT US

メールでのお問い合わせ